「サブスタンス」

どえらいもんを観た。
これはジャンルで言うとホラーにはなるんだろうけど、もうどうなっちゃってんだ!?っていう爆裂映画。お口ぽっかーんの強烈な仕上がり。
デミ・ムーア演じる、かつて大人気だったハリウッド女優のエリザベス・スパークルは50才。エリザベスの朝のエアロビクス番組は現在も継続していて、レオタードで元気いっぱい。現役感ありありのルックスなのだけど、番組プロデューサーのハーヴェイ(デニス・クエイド)に突然の降板を伝えられる。ハーヴェイが言うには、エリザベスが50才になってるんで”it”、何かを失ってるからって。要するにもう若くないんで、若い子に交代するんだ。
まぁ、そんなことをぬけぬけと言うハーヴェイの方も、とうに50は超えていそうだし、エリザベスとの食事中で、汚くエビやらを貪り食らうのを口元クローズアップにして、老いさらばえて相当な醜態を晒してる姿を見せるわけです。
デニス・クエイドがそんな嫌な男役で登場。ナイス配役。魚眼レンズ風演出でお顔のボテボテ感アップで嫌な感じを上乗せしてる。

で、向かい合って話を聞いてるエリザベスは50だろうが、流石のハリウッド女優で綺麗なんだよね。だけどハーヴェイはもうお構いなしで好き放題言うわけだ。女子トイレが故障中だったんで、エリザベスが誰もいないのをいいことに男子トイレに入ったら、ハーヴェイが携帯でエリザベスの事をもっと明け透けに扱き下ろしていたのも聞いてしまった。
「君は最高だった。」の言葉に打ちのめされるエリザベス。過去形であることは彼女にとっては単なる降板通知以上の破壊力を持つ。
ハーヴェイが忙し、忙しと去った後、ワイングラスに一匹のハエが溺れているのを見るエリザベス。グラスの中で手足をバタつかせてあたふたするハエは若さを失ってジタバタともがく、まるで自分。消費される女の美。若さを失っていく自分に何の価値も見い出していないハリウッド世界、あるいはそれに違和感を持たない者達の代表、ハーヴェイ。
失意のエリザベスは帰り路で事故を起こしてしまう。病院で診察を受けて怪我はなかったものの落ち込みぶりが酷い。若い男性看護師から何やら背骨をチェックされ、家に帰るとコートのポケットにUSBメモリが入っていた。それは若さと美しさ、より完璧な自分を得られる薬物「サブスタンス」を説明するものだった。
案内のあった怪しい廃墟然のビルに入っていくと、奥には綺麗に整えられたロッカー室。「503」のカードキーを開けると「サブスタンス」ファーストキットの箱が用意されていた。エリザベスは禁断の薬物に手を出した。

「サブスタンス」の入手で携帯で知らぬ人と話はしたのだけど、エリザベスは誰とも会っていないし、どういったものかもわからないまま。でも手を出す。得体の知れない謎の薬物を自分の体に注入しようっていう、その貪欲さ、警戒心薄め。このキットのデザインがおしゃれで怪しさゼロっていうこともあって、ハリウッド女優ならばお顔のメンテナンスで色々やってるだろうから、敷居が低いのかもしれない。
自宅で注射を打ってみて、鏡をチェック。なんだぁ、、、と思ったところに激痛!背中がぱっくり割れて、中からピチピチ、パツパツの新しい私の誕生!マジ、パツパツです。

「サブスタンス」ルールで二つの体は7日交代で活動。一方が活動中はもう一方は意識ない状態でお休み中。母体であるエリザベスの体から注射器で体液を吸い上げ、1日1回新しい体に注入。それを維持しないと鼻血出てきて意識朦朧としちゃうんで、取り扱いは慎重に!
ピチピチの新しい方は「スー」と名乗って、そうだわ!とエリザベスの後任者のオーディションへ出向く。見事なピチピチ、パツパツぶりで合格!一新されたフィットネス番組に登場したスー(マーガレット・クアリー)は、その弾ける魅力と朝っぱらからのエロ風味で味付けしたエクササイズ具合で大人気になっていく。ヴォーグの表紙にも選ばれるし、大晦日のスペシャル番組のMCにも抜擢される。もう7日じゃ活動時間が足りん。さぁ、どうなるん?というぶっ飛びストーリー。

エリザベスが素敵に装ってデートに出掛ける間際、大きな窓から見えるスーの広告看板を見て、これじゃダメだとやり直す場面がある。チークと口紅を濃くしたと思ったら全部落としてみたり。エリザベス自身も若い美しさに囚われていて、自身の美しさに納得がいかなくなっている。いや、十分に美しいのにまるで見えていない。胸元がシャープに開いているドレスがよく似合っていたのに、急に胸元にスカーフをあしらって、年がいっている自分の体をみっともないとさえ感じて隠す。もう痛々しくて見てられん。
本作は生々しさの強い演出が素晴らしくて、カクテルに添えられたオリーブの実をスティックでぶっ刺してグロテスクに潰れる様だとか、卵の黄身がぶにゅっだとかの視覚効果がスタイリッシュな画に納められている。生々しい質感のものをじっとりした雰囲気でなく、クリアでカラフルな色彩で魅せるバランスがよくて、グロシーンも多いのだけど、それでも画がきれい。監督が相当に拘って色彩と画角をコントロールしていることが窺える。シンメトリーを多用、エリザベスの家のインテリア、エリザベスの黄色いコート、ホラーには珍しいポップな色合いで統一されている。
で、ラストに向けて血しぶきがこれでもか!のシーンがあるのだけど、理屈で考えたら「身体のどこにそんな量の血が入ってんだよ!」というレベルの尋常じゃない量の血しぶき。物理法則をぶっ壊して、美しさのために身体を壊し続けた人間の最終形態を、ほとんどマンガみたいな描き方にして突き抜けていく。
もう、真っ赤も真っ赤!血しぶきで画面が真っ赤っか状態に。
恨み晴らさでおくべきかーーー!これ、どういう映画?もう笑っちゃう。これどう収拾つけるよ?と悪ノリとも言える豪快な思い切りの良さ、この映画のぶっ飛び具合に感服するしかない。若さや美を失った者への気ままで辛辣な冷遇に対して、ざっけんなー!!という血しぶき浴びせ。後でこれが女性監督によるものと知り、深々と頷き、申し訳ございません!と平謝りすることになるでしょう。
そして、視聴者はスーのそのプリプリの肉体の素晴らしさに否応なしに目を奪われるわけだけど、実はその肉体は演じているマーガレット・クアリーの体にシリコン製の人工ボディを接着して、人々が望むであろう”スーパーセクシーカーブ”を持つパーフェクトな体に偽装されているのだ。しかも特殊シリコンは体だけでなく、頬骨や顎先にもプラスされ、完全なる理想の女になるべく整えまくられていたという。
スーの美しいカービーボディを見てエリザベスが落ち込むのもやむなし。とこちらも納得しそうになるのだけど、そもそも元バレエダンサーで美しい肉体を持つ若く美しい女優を連れてきてもなお足りず、シリコンスーツで肉付けしなければ完成しないファンタジー世界の完璧さだったのだ。現実の女性ではないのだ。マーガレット・クアリーはシリコンの長時間の装着と特殊メイクの接着剤による体と顔の肌荒れに悩まされ、回復するのに1年掛かった。この映画製作プロセス自体にエリザベスの陥っている完璧な美への改造と引き換えの代償があるという二重構造。ぶるっときますな。
主要人物はデミ・ムーア、分身のマーガレット・クアリー、プロデューサーのデニス・クエイドくらい。シンプル配役でここまでコテコテに濃い&ポップなホラーを成立させたコラリー・ファルジャ監督は脚本も担当。濃いはずだ。
実はこの映画を観ていて、以前に観た短編映画『リアリティ+』と設定は同じだなと思い出したら、それもコラリー・ファルジャ監督の作品だった。そちらは可愛らしい映画だったんで、同じ設定であってもこんな豪快ホラーに落とし込む監督の手腕、恐るべし。
『リアリティ+』のレビューはこちらをどうぞ。
wolf-yo.hatenablog.com
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