夕刻のラッシュアワー。電車が発車しない。
「お客様の荷物が挟まり、緊急停止ボタンが押されました。」とアナウンスが入った。
しばらく経って発車すると、車内アナウンスで経緯が明かされる。先のアナウンスでは荷物挟まりと言っていたが、「トラブルがありました。」に変わっている。乗客同士の喧嘩か?と考えるも再度アナウンスが。「迷惑行為がありました。」に変わる。そして「故意に体をねじ込んでのドア挟まりは、他たくさんの乗客の迷惑となります。」と具体的に指摘され、「迷惑行為はやめてください!」で報告は終了した。
結構強く言っている。本当にやめてほしいという気持ちが伝わってきた。以前ならぼやかして言っていたような気がする。はっきり言わないともう伝わらないと電車側も腹をくくったのだろう。
どんな状態だったんだろうか?どうしても乗りたい元気な乗客がドアに向かってダイブ。しかし間に合わず、体半分だけ車内に入り、腰下はドアの外。このまま電車が動き出すのかと、人込みのホームで恐怖の雄叫びを上げたのだろうか。それを見た誰かがキャーと悲鳴を上げ、また別の誰かが慌ててボタンを押したのだろうか。
家路へと急ぐ時間帯。発車しない電車。
「迷惑行為はやめてください!」
皆の気持ちが集約したようなアナウンスが響き渡る。
どうしても乗りたいその乗客の行方も気になる。そのままこの電車に乗り「おぬしだな」と身バレした状態で、このアナウンスを他の乗客と共に車内で聞いているのだろうか?
駆け込み乗車は危険です、だったと思う。もうニュアンスが違う。ギリギリの乗車は当人の危険ではなく、他者への迷惑行為の方へと比重が変わっているのだった。