「エレファント・マン」

エレファント・マンが可哀そうでひたすら辛かった記憶があって、二度と観てはいけない映画と思っていた。が、ほぼ忘れた状態で観たら、随分と印象が違う。
エレファント・マンと呼ばれている奇形の男、ジョン・メリック(ジョン・ハート)が、その姿が醜いと心無い人々に虐められたり、酷い扱いを受け続ける映画という印象だったのだけど、ジョンに良くしてくれる人々を同じくらい、いや、もしかしたらそちらの方を多めに描いているかもしれない。
見世物小屋で好奇の目に晒されていた囚われのジョン。見世物ショーの主人バイツ(フレディ・ジョーンズ)はジョンを自分の所有物かつ動物のように扱っていた。外科医のトリーヴス(アンソニー・ホプキンス)は奇形のジョンを研究対象として病院に招くうち、彼が知的で穏やかな人物であることに好意を持ち、バイツからジョンを引き離して、病院の一室をジョンに用意して人間らしい暮らしを提供する。
初めはジョンの姿に怯えていた看護師達、病院でジョンを預かることに懸念を示していた院長もジョンの人となりを知るうちに、ジョンを怪物のように見ることはなくなっていく。
新聞でジョンの芸術への想いを知った大女優のケンドール夫人(アン・バンクロフト)はジョンとの面会を申し出て、初めてその姿を側に見た時からジョンの姿にすくむこともなく、全く差別的な態度がなかった。ふたりで戯曲『ロミオとジュリエット』を読み合い、ジョンの内にある芸術への羨望と理解にその場で応えるのだった。ロミオに扮するジョンにジュリエットのケンドール夫人は口づけをする。

ケンドール夫人、トリーヴス医師らが慈悲に溢れて美しいので、ジョンを下等な生物としか見ていない醜悪な人々の下衆さがこれでもかと際立つ。
「あいつはバケモンだ」ジョンを人間扱いせず、鞭打つ見世物小屋主人バイツ。手伝いの男の子の「お願い、やめて!」の懇願が辛い。

病院の警備係の男は、ひとり勝手に見世物ショーを開催。内緒で夜の病院の鍵を開け、ジョンの部屋にこれまた下衆な人々を招き入れて小銭を稼ぐ。
日中、病院のジョンの部屋には面会を希望する客人が次々と。こちらは一応きちんとした人々だが、しかし、ジョンの奇形ぶりを見たいだけの興味本位で面会する人達もいるわけで、トリーヴス医師は自分のやっていることも見世物小屋の主人と変わらないのではないか?と自問する。いえ、絶対に違いますよ!!
檻に入れられて鞭打たれていたジョン。身だしなみを整えて自分の部屋で客人を招き入れる日々はジョンにとって望むことの出来なかった普通の人間の暮らしそのもの。たとえ、ジョンの姿にティーカップを持つ手が震えるご婦人がいたとしても。
ジョンはケンドール夫人に招待され、彼女の舞台劇で桟敷席に座る。美しい大劇場に集まった大勢の人々の中、舞台の上のケンドール夫人から紹介され、会場から暖かい拍手を受けるジョン。その夜、”普通の人間の暮らし”に焦がれるジョンは、圧迫死の危険があって”普通の人間”のように横になって寝ることはしたことがなかったが、ベッドに置かれたたくさんのクッションをひとつひとつ落としていく。今夜は”普通の人間”のように横になって眠るのだ。
ラストシーンが悲しくて辛かったのを覚えていた。でも違った。ジョンは充ちたりてクッションを除けたのだ。そこにジョンの悲しみはなかったのだと、彼の納得の人生が見えた。彼は幸せの中で生涯を閉じたのだった。
名優アンソニー・ホプキンスが聡明で誠実なトリーヴス医師を演じていて安心感。

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