「日の名残り」

1930年代、ダーリントン卿の大屋敷の執事として長年仕えているスティーブンス(アンソニー・ホプキンス)はメイド頭と副執事が駆け落ちをして同時にいなくなってしまったため、新しいメイド頭としてミス・ケントン(エマ・トンプソン)を面接。同じ事態を恐れ、屋敷には異性を招かぬようにと釘を刺して雇い入れる。副執事には長く執事の経験のあるスティーブンスの父親に頼むことに。
仕事に厳しいスティーブンスと有能で意見もきちんと述べるミス・ケントンは意見が合わない場面がありながらも、大勢の屋敷の使用人を管理する立場に立って仕事を共にするうちに、お互いの仕事ぶりに敬意を持ち惹かれ合っていく。
なんだかんだ仲良しのふたり。

が、ふたりとも好きとか一言も言わない。言えばいいのに、言わない。執事の仕事一筋のスティーブンスは恋愛をしないのでしょうか。同じく執事だった父は家庭を持っていたのだから、自分も家庭を持てばよいのに、とにかく仕事一筋で多忙なため、それどころではないのか、奥手なのか。
ミス・ケントンも痺れを切らして、それとなく気持ちを見せたりを試みるのだけど、スティーブンスの対応はいつでも素っ気ないのだった。この辺り、こんなに立派な紳士なのにそんなに気のないフリして、どうしたの?とちょっと可愛げ。どうしてそんなうぶな反応になってしまうのか、コント風味。
でも、ミス・ケントンにしてみたら年齢の事もありますしな、自分にほんとに気が向かないのならば、どうしたらいい?以前の屋敷勤めで同僚だった人から求婚されたけど、まだ迷ってるとスティーブンスに言ってみる。当然、止めてほしい。
で、やっぱりスティーブンスに素っ気ない態度を取られてしまい、自室で泣くミス・ケントン。たまたま地下のワインセラーから戻るところで泣き声を聞いたスティーブンス。そっと、ミス・ケントンの部屋へ入る。
よし!他の男と結婚なんかするなと言ってやれ。
「伝えたいことが。」ミス・ケントンが泣き顔を上げる。「朝食室前の小部屋ですが、新入りメイドの掃除が甘いようです。」
涙ぼろぼろの想い人に何を言ってるんでしょうか。やっぱりこれはコントなのだろうか。
スティーブンスとミス・ケントンの恋模様と同時進行でダーリントン卿がドイツ政府と深く関わりを持つことでナチスとの問題もあったりとディープな話も絡む。が、やっぱりこれは執事役がド嵌り過ぎるアンソニー・ホプキンスの所作を見ているだけで映画が持ってしまうというミラクルをしっとりと楽しむ映画なのだ。
この時アンソニー・ホプキンスは50代半ば。回想シーンが実際の彼の年代に近いようなのだが、年を取った時のシーンが本物のじいさんにしか見えない。ヘアメイクだけではない、背の丸まり方や目線のぼんやり具合で老人を見事に演じている。流石が過ぎる。
エマ・トンプソンもとてもいい。彼女は他の映画だと、どこかくどい感じがしたりもするのだけど、この役はとても好き。お互いに好意があることがわかっていても、この時代の淑女なので、あれが精一杯の仄めかし。彼女の肩をさすって自分も一緒に泣きたかったよ。
監督は古き良き英国を美しく描くのが得意なジェームズ・アイヴォリー。英国上流階級の優雅な暮らしぶりで画がとてもきれいなのも楽しめるところ。
↓応援ボタンです。よろしければ~