読み始めたら止まらない。失踪した子供はどこに?チャイルド・ファインダー

「チャイルド・ファインダー  雪の少女」

 レネ・デンフェルド:作

 細美 遙子:訳

 

 

チャイルド・ファインダー。”子ども見つけ屋”とルビが振られている。そんな職業名はないのだが、その高い実績からナオミはいつしかそう呼ばれるようになった。

 

米国では子供がよく失踪する。牛乳やシリアル箱の側面に失踪した子供らの写真が掲載されているのを見る。日々消費するような食品の側面に次々と掲載されるたくさんの子供達。この子達はどこに行ったのか?恐ろしいことだが、答えのひとつに良からぬ欲望を持つ者の家の地下室や離れに囚われているというものがある。広い国土、車での移動。悪意を持つ者が子供を隠し続ける。見つからぬまま時は過ぎる。

 

子供の失踪という辛すぎる設定に、最後まで読めるだろうか?と少し恐れた。しかし、読み始めると止まらなくなるほどに引き込まれ、一気に読み終えた。

 

雪深いオレゴン州の山の中。猟師が仕留めた動物の皮を剥ぐ。研いだナイフ。捌いた後のくず肉を溜め置くバケツの血の匂い。むっとするような汗の匂い。絶望。

 

過酷な状況に子供がいる。濃密で不穏な気配が充満しているにも拘わらず、小説内に澄んだ清涼な空気が漂っているのはどういうことだろう。囚われた少女が見せる賢さ、ナオミの尋常でない過去から来る嗅覚に、読者は絶望の中に救いを見出し、ナオミを信頼して展開を見守る。恐ろしい結末が待っているとしてもナオミと共に進むしかない。暗い状況下の中、自身の経験値と推理によってナオミは失踪した子供に迫っていく。

 

この小説に一定の安心感が続くのは、チャイルド・ファインダーたる主人公が女性であることが大きいのではと思った。少女の頃ナオミは全裸でイチゴ畑を疾走し、どこかから逃げてきたところを保護された。それ以前の記憶を失っているナオミは、養母となるミセス・コトルの家に預けられる。この老婦人のスカートの中に自分と結びつけてくれるものがある、という表現がある。大人の男に性暴力を受けていたと示唆されるナオミが、大人の女性の側にいることで、それまで経験したことのない心の底からの安心を感じる。この構図が捜索を続けるナオミと失踪した少女にも当て嵌まり、性暴力の対象から外れていることの安堵が読者にも伝わるからではないかと思う。ナオミは完全にこちら側の人間なのだとはっきりしていることの安心感。

 

ナオミと子供は言わば同士で、子供を探し出し救出する/自身を解放するという純粋な目的がある。若い男の主人公と美少女では、安易にメタファーとしての恋愛が入り込む隙がある。これは無い。それがいい。

 

話は複数の目線で切り替わり、読者は少しずつ繋ぎ合わさってくる夫々の状況を知ることになる。少女が失踪した地点に点在する胡散臭い人々、一見親切そうな人々。ナオミは全ての人を疑って気を許さない。少しずつ進む捜査と予断を許さない失踪した少女の行く末は交差するのだろうか?ページを先へ先へと進める。

 

心に傷を持つナオミにとって、そして読者にとっての救いは養母となったミセス・コトルと、彼女の養子であり共に育った黒髪のジェローム、年上の友人ダイアン。「安全よ。」とミセス・コトルがナオミに言ったように、彼女らの登場シーンでは読者も一息つけるのだ。ジェロームの静かな愛情もこの小説の清涼な空気の元になっている。

 

物語の最後、ナオミは次の捜査に向かう。己の過去に向き、その真相を辿ることになる。すでにそれはチャイルド・ファインダー第2段として出版されているが翻訳本はまだの様子。楽しみに待ちたい。

 

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